アメリカには日本のような国民皆保険制度がありません。
公的医療保険制度はあるにはあるのですが、加入できるのは高齢者や身体障害者、そして低所得者だけです。
ほとんどの人は、自分で民間の保険に加入しなくてはなりません。
この保険が、日本では考えられないくらい複雑で、アメリカ人でもそのややこしさに圧倒され、イライラしています。
この記事では、自分の健康保険を選ぶ仮体験をしながら、
- 健康保険は必要?
- アメリカの2つの公的医療保険
- 自分が入れる保険は?
- 保険を選ぶポイントと保険用語解説
- この保険プランなら、支払いはこうなる!
をご紹介します。
健康保険が必要な理由
アメリカの医療費はとても高いので、健康保険に加入しないと医療破産の危険があります。
健康保険は、大事故・大病などによる桁外れな請求から、あなたの命を守ってくれます。
足を骨折した場合、お金が貯まるまで医者に行かないという訳にはいきません。
健康保険があれば、必要な時に治療を受けることができます。
健康保険は、高い医療費を支払うために必要です。
高い医療費について詳しく↓
アメリカでは、65歳以上の人はメディケアに、低所得者はメディケイドに加入することができます。
この2つはアメリカの公的医療保険制度です。
アメリカの公的医療保険制度
メディケアとメディケイド。
2つの保険制度の概要を表にまとめてみました。
メディケア(Medicare) | メディケイド(Medicaid) | |
---|---|---|
条件 | アメリカに合法的に5年以上居住 アメリカ市民権または永住権保持者 65歳以上の高齢者 65歳未満でも身体に障害を持つ人 65歳未満でも透析が必要など重度の肝臓障害を持つ人 | 低所得者 |
患者の支払い | 費用の一部 | 基本的に無し |
運営 | 連邦政府 | 連邦政府と州政府 |
サービス | アメリカ国内どこでも同じ | 連邦政府のガイドライン内で州によって異なる |
この2つの保険対象外の人は、民間の保険加入を検討することになります。
では、健康保険を選ぶ仮体験をしてみましょう。
健康保険の選び方
まず、自分が入れる保険はどんなものか?見てみます。
加入できる保険は?
就職しているかどうかで変わります。
企業に就職していれば会社提供の団体保険
仕事を持っていれば、職場の提供する団体保険(民間の保険)に加入することができます。
団体保険のメリットは、
- 企業が保険料の一部、または全部を負担してくれるため、雇用者は少ない保険料で済む
- 保険のプランも一般的に条件が良い
良い保険プランを提供してくれる企業は、雇用者がその企業を選ぶ理由の一つになっています。
時には、仕事内容よりも重要視されるくらいです。
フリーランスや仕事のない人は民間の健康保険
団体保険に入る資格のない場合、自分で健康保険に加入することになります。
その際、プランにも寄りますが、一般的に保険料は高くなります。
医療保険制度改革法(通称、オバマケア )が2010年に始まる前は、若くて健康なのを理由に、高い保険料を払いたくないからと保険に入らない人もいました。
(オバマケア以前の未加入者の割合:全国民の16%)
しかしオバマケアで加入が強制になり、未加入者には罰金が課されることで加入者は増えました。
(2016年の未加入者の割合:全国民の11%)
その後、罰金が廃止され、未加入者の割合はまた増えつつあります。
(2017年の未加入者の割合:全国民の12%)
どちらの民間保険に入るか決まったところで、次に保険に加入するために必要なネットワークという仕組みについてお話しします。
ネットワークはどこを選ぶ?
ネットワークというのは、加入する保険会社が契約している病院や医師、ラボなどの医療機関のことです。
アメリカの健康保険は、日本のように入っていればどこの病院でも好きに行けるわけではありません。
その保険会社が契約している医療機関でないと、保険が適応されないか、支払いが高くなります。
代表的なネットワークのプラン
PPOとHMOがあります。
違いを表にまとめてみました。
PPO (Preferred Provider Organization) | HMO( Health Maintenance Organization) | |
---|---|---|
ネットワーク内の診療 | 主治医を通さなくても、希望する医師・専門医に 自由にかかれる | 主治医にまず診てもらう 主治医が治療を決定し、専門医の紹介、検査を指定する |
ネットワーク外の診療 | 利用できるが、加入者の負担が大きくなる | 保険は適応されない 加入者は全費用を支払う |
保険料 | 高い | 安い |
ディダクタブル* | ある | 低いか、なし |
いちばんの売りは? | 医師選択の柔軟性 | コストが低い |
ディダクタブル(Deductible)
免責額。
年間でプランにより金額が決まっていて、その額になるまでは保険が利かず、全額自己負担になります。
ディダクタブルの設定金額を超えると、ようやく保険でカバーされます。
この金額は、1年を過ぎるとリセットされます。
どちらのネットワークが良いと思われましたか?
HMO?PPO?
我が家の場合:PPOを選択しました。
理由は、日系の病院にも行きたかったからです。
日本語を使える病院は、HMOにはありませんでした。
特に日系の小児科は、娘が小さかったこともあり、外せませんでした。
ネットワークを決めたら、それぞれの保険会社が提供しているプランを見ます。
プランによって条件がいろいろ異なります。
プランを選ぶ際に、注意すべきポイントを見てみましょう。
保険料は?
毎月、加入者が保険会社に支払わなくてはいけないのが保険料です。
病院に行かず、保険を使わなくても、支払いはしなくてはいけません。
一般的に、保険料を毎月多く払えば、ディダクタブルの設定金額が低くなり、すぐに保険でカバーされるようになります。
支払いを少なく抑えれば、ディダクタブルの設定金額が高くなり、なかなか保険でカバーされません。
自己負担額は?
医療サービスを受ける度に、支払わなくてはいけないのが、自己負担額(コーペイ)です。
コーペイ(Co-pay)
自己負担額。
受診の際、医療機関の窓口で毎回支払います。
主治医は20ドル、専門医は40ドルという感じで、プランによって変わります。
毎回のことなので、金額には注意が必要です。
我が家の場合:コーペイが年々上がっています。
20年前は、一律で10ドルでした。
それがいつの間にか20ドル(倍!)となり、今は40ドル(さらに倍!)です。
ただ子供の年一回の検診は、ずっと無料です。
コーペイより気にすべき支払いがあります。
自己負担の割合は?
保険でいったいどれくらいカバーされるのか?が、自己負担の割合(コーインシュアランス)です。
手術をしたり入院した時に、特に重要になります。
コーインシュアランス(Co-insurance)
自己負担の割合。
ディダクタブルの支払いが終わり、保険適応になった後、加入者が支払う自己負担の割合です。
例えば、80%保障の契約の場合。
100ドルの請求に、加入者は20ドル、保険会社は80ドルを負担することになります。
保険会社が負担する割合が大きいほど、カバー率が良くなり、加入者の負担は少なくなります。
しかし当然ながら、毎月の保険料は上がるでしょう。
この割合で、いつまでも支払い続けなければいけないのか?(破産する!)と言えば、そうではありません。
自己負担額の上限は?
自己負担額の上限(アウトオブポケットマキシマム)が決まっています。
ICUに入院した時など、莫大な請求が来るので、この上限が低めだと安心です。
アウトオブポケットマキシマム(Out-of-Pocket Maximum)
年間に支払う自己負担の上限額。
この金額を超えた医療費は、全て保険会社が負担します。
コーペイやディダクタブル、コーインシュアランスの支払いが含まれないこともあります。
我が家の場合:アウトオブポケットに達したことはありません。
すごく高い金額設定では無いのですが、救急車やER、MRIをしてもまだまだでした。
支払っても含まれない項目というのがあり、結構クセモノです。
医療費負担適正化法では、自己負担は個人で6,600ドル、家族で13,200ドルを超えてはならないと定められています。
上限があるなら、破産することもないのでは?と思いますよね。
ところがどっこい。
治療や検査によっては、保険適応外で地腹になることもありますし、ライフタイムマキシマムベネフイットというモノもあります。
ライフタイムマキシマムベネフイット(Lifetime Maximum Benefit)
保険会社が支払う上限額。
この金額を超えた医療費は、全て自腹になります。
大事故、難病になると、破産もあり得る、これがアメリカの保険です。
保険を選ぶポイントは?
アメリカの民間の保険、何となく分かっていただけたでしょうか?
保険会社が支払いまでにいろいろと制限を設けるのは、鼻水をすすっただけで病院に行かれるようなことにしたくないため、と言われています。
もし治療費が無料だったら、医療費が莫大なものになる、と心配しているのです。
(…の割に既に高い訳ですが。)
健康保険のプランを選ぶのは、アメリカ人でもとても悩ましい問題です。
まず考えなければいけないのは、自分の(家族の)健康状態です。
糖尿病のような慢性疾患を患っているなら、毎回の自己負担額を下げ、高い保険料を毎月払うのは理にかなった選択です。
健康に自信があるなら、毎月の保険料を下げるために、免責額の高いものにするかも知れません。
病院に行く機会が少なければ、医療費の支払いも少ないからです。
手頃な保険料で、自己負担額ができるだけ少ないプランを探すのは、もちろん当然のことです。
健康保険料について詳しく↓
最後に、実際に保険がどう使われるか?サンプルの例を作りましたので、そこから見てみましょう。
健康保険を使った例
保険のプランは、次のようなものを選びました。
職場の団体保険、会社がかなり多めに負担してくれています。
ネットワークはどこの病院でも行けるPPO、カバー率の良いものにしました。
家族(3人、夫婦と子供1人)で、保険料は月に326ドルです。
コーペイは主治医が20ドル、専門医だと30ドルです。
ディダクタブルはネットワーク内で500ドル、ネットワーク外だと1,000ドルです。
コーペイは含まれません。
コーインシュアランスは80%保障の契約にしました。
アウトオブポケットマキシマムはネットワーク内で2,200ドル、ネットワーク外だと4,000ドルです。
コーペイは含まれません。
この保険の場合、以下のような支払いになります。
体調を崩し、発熱、嘔吐しました。
※アメリカの医療費は高いので、風邪くらいでは病院に行きません。
市販の風邪薬を飲んで治すのが普通です。
ネットワーク内の主治医のいる病院へ行きました。
コーペイの20ドルを払いました。
検査を行い、医療費が300ドルかかり、後から請求が来ました。
(アメリカでは請求はその場ではなく、後から封書でのことが多いです。)
ディダクタブルは500ドルなので、300ドル全額を払いました。
(※超えるまであと200ドル。)
子供が骨折しました。
ネットワーク内の専門医のいる病院を保険会社のサイトで探し、行きました。
コーペイの30ドルを払いました。
治療費として500ドルかかり、後から請求が来ました。
ディダクタブを超えるまでの、200ドルを払いました。
残りの300ドルは、コーインシュアランスの80%保障で、保険会社が240ドル、自己負担の60ドルを払いました。
アフターケアのため、2週間ごとに4回通いました
コーペイの30ドルx4の120ドルを払いました。
ここまでで、この年の自己負担額はコーペイは含まず、$300+$200+$60=$560です。
(アウトオブポケットマキシマム、ネットワーク内の2,200ドルを超えるまであと1,640ドル。)
盲腸になり、手術しました。
ネットワーク内の専門医のいる病院を探し、行きました。
コーペイの30ドルを払いました。
手術が決まり、入院1泊、手術代として後から50,000ドルの請求がきました。
(驚きの金額ですが、アメリカでは普通です。)
コーインシュアランスの80%保障で、保険会社が40,000ドル、自己負担の10,000ドルになりますが、
アウトオブポケットマキシマムまで1,640ドルだったので、自己負担は1,640ドルになり、残りは保険会社が払ってくれました。
と、こんな感じになります。
簡単に例を挙げてみました。
実際は、金額はキッチリしていないし、主治医が紹介したのにラボが実はネットワーク外だった!とか、手術が終わったら麻酔師がネットワーク外だった!なんてこともあります。
当然、保険会社から送られて来る明細も複雑になり、単純な計算ではなく、どうしたらこの金額になるの???というのばかりです。
後からネットワーク外だと知った話↓
ややこしいので、病院や保険会社でも間違いは多々あり、カバーされるはずなのにされていないとか(クレームを入れると無料になる)、この控除額は何?とか、後から取りすぎたとチェックが届いたり…。
本当に疲れます。
あ、あと、最後にもう一つ、大事なことがありました。
歯科と眼科は保険が別で、歯科保険、眼科保険には別に加入しないとなりません。
参考:HMO vs. PPO Insurance Plans
How Health Insurance Works
まとめ
アメリカの健康保険制度を易しく解説!【一緒に保険を選んでみよう】、いかがでしたでしょうか。
- 健康保険は、高い医療費を払うために必要なもの
- 公的医療保険は2つ、高齢者用のメディケアと、低所得者用のメディケイド
- 対象者以外は、自分で民間の保険に入ることになる
- 企業に就職していれば、会社の提供する団体保険が条件が良くて、保険料も安い
- フリーランスや仕事のない人は、自腹なので保険料は高くなる
- PPOとHMOが代表的なネットワークのプラン
- ディダクタブル、コーペイ、コーインシュアランス、アウトオブポケットマキシマムなどを考慮して保険を選ぶ
- ポイントは、自分と家族の健康状態
- 歯科と眼科は保険が別
でした。
ややこしい〜!と思っていただけたでしょうか。
我が家は団体保険なので、病院へ行くと、よく、
「良い保険ね〜^^」
と言われるのですが、年々、自己負担額は増えるし、これで?これで良い保険なの??と思うことが多くなりました。
ちなみに、保険会社の提供するプランは50〜60以上あって、同僚でも家族構成が違えば(同じでも)、支払額や負担の割合は同じではありません。
病院も保険会社も、そりゃ、事務処理が大変ですよね。